大阪の国立民族学博物館で開催された「吟遊詩人の世界」展は、世界各地の口承文化と音楽の魅力を深く掘り下げる、実に刺激的な体験でした。この展示を通じて言葉と音楽が織りなす豊かな文化の世界へと誘われました。
印象的な吟遊詩人たち
瞽女(ごぜ)- 見えない世界からのメッセージ
日本の瞽女文化は「全身の感覚を総動員して、目に見えない世界を想像・共有する行為」として紹介されていました。視覚に頼らず「身体でみる」この文化は、村人と瞽女の協働によって発展してきたのです。
瞽女の後継者が減少した理由として、ラジオ・テレビの普及や音楽教育・福祉制度の充実が挙げられていましたが、それ以上に「より多く、より速く」を追求する近代化や視覚優位の価値観との関係を考えさせられました。歴史的展望に基づき「見えない世界をみる」瞽女文化を現代社会に活かす方法を探る必要性を強く感じました。
タール沙漠の芸能世界
インドのタール沙漠には数百もの芸能集団が存在するといわれています。これらの集団は、民族属性や宗教、芸能形態や楽器のレパートリーなどで分類されてきましたが、その多様な全体像はまだ明らかになっていません。
特筆すべきは、これらの芸能が人々の世界観や価値観、社会関係や生業など、あらゆる側面に影響を与えてきたという点です。芸能が単なる娯楽ではなく、社会や文化の根幹を形成する重要な要素であることを再認識させられました。
モンゴル高原の韻踏む詩人たち
モンゴルの吟遊詩人文化は、シャーマニズムとの深い結びつきを感じさせるものでした。シャーマンたちは獣の毛皮を纏い、巨大な円形の革張りの太鼓を叩きならしながら激しく踊る姿が印象的でした。
興味深いのは、シャーマンに憑依した精霊が集団の物語を語るという点です。彼らが語るのは英雄叙事詩のような華々しい物語というよりも、彼らの悲劇の「歴史」であるという解説に、深い共感を覚えました。
吟遊詩人の文化と伝統
この展示を通じて、世界各地の集落にはそれぞれの伝説や伝記があり、これらが歌い継がれてきたことを学びました。今もこの瞬間にも引き継がれているこれらの文化こそが、真の多様性を形作っているのだと強く感じました。
文化圏を超えた共通点と相違点
異なる文化圏の吟遊詩人たちを比較することで、興味深い共通点と相違点が浮かび上がりました。多くの民族で歌による文化の継承が行われている一方で、モンゴルでは韻踏(いんふ)が発展し、その系譜がヒップホップにまで及んでいることは非常に興味深い発見でした。
一方で、日本では近代化やポピュラーミュージックの発展により、この系譜が途絶えているように見えたのは少し寂しい気がしました。しかし、2階フロアの「ポピュラー音楽と吟遊詩人」のコーナーで日本の民謡ユニット「こでらんに」の音楽が流れていたのは、伝統と現代の融合の可能性を感じさせるものでした。
現代社会への問いかけ
この展示を通じて、現代社会における「語り」や「物語」の重要性について深く考えさせられました。特に印象的だったのは、現代社会(近代化)の方がむしろ「ズレている」という感覚です。全員が同じように均等に同じような文化を許容・強制している現代社会や都市に、むしろ違和感を覚えるようになりました。
国立民族学博物館の魅力
聴覚的体験
展示では、各地方の民族楽器や衣装が展示され、モニターには各民族の歌や祭りの映像が流れていました。特に太鼓やパーカッションなどの打楽器の音や響きは、原始的でありながら、熱を帯びた神秘の世界へと私たちを誘う力を持っていました。これらの聴覚的要素は、単なる展示物の域を超えて、吟遊詩人の世界を体感させてくれる重要な役割を果たしていました。
展示方法
民族学に特化した博物館だけあって、衣装や楽器、研究資料が豊富に展示されていました。各民族ごとにコーナーが設けられ、8つのフィールドから地域社会が紹介されていたのは、「吟遊詩人の世界」というテーマを多角的に理解するのに非常に効果的でした。
この「吟遊詩人の世界」展は、単なる過去の文化の紹介にとどまらず、現代社会のあり方や、文化の多様性の重要性を深く考えさせてくれる貴重な機会となりました。声と音で紡がれる物語の力を、あらためて実感させられた素晴らしい展示でした。
展覧会情報
展覧会名
みんぱく創設50周年記念特別展「吟遊詩人の世界」
開催期間
2024年9月19日(木)~12月10日(火)
開館時間
10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日
水曜日
会場
国立民族学博物館 特別展示館
展示会公式サイト
https://www.minpaku.ac.jp/ai1ec_event/51494
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