大阪中之島美術館で開催された「塩田千春 つながる私」展は、私たちの存在の本質と他者とのつながりを深く考えさせる、心揺さぶられる体験でした。
印象的な作品たち
《巡る記憶》- 記憶の循環
最も印象に残った作品の一つが《巡る記憶》です。
トンネルのようにカーブを描く白い糸と真っ黒な水盤のコントラストが、視覚的にも心理的にも強烈な印象を与えます。糸から断続的に落ち続ける水滴が水面を揺らす様子は、まるで私たちの脳内で絶えず活動し、循環する記憶のようでした。
白い糸で覆われた空間は、脳内のニューロンネットワークを連想させ、私たちの中に留まり続ける記憶の永続性を表現しているようでした。
《つながる輪》- 集合的な人間性の表現
本展のもう一つの注目作品が《つながる輪》です。パンデミック後に「自分はこれほどたくさんの人とつながっていたのだ」と気づいた塩田さんが、一般の方から募集したメッセージを使って制作した作品です。
赤いロープの中で渦巻くように円環を描く1500以上の言葉は、さまざまな人生の断片を見せてくれます。この作品を通じて、鑑賞者はメッセージを寄せた人々と一瞬でもつながった感覚を味わうことができ、人間の集合的な経験と感情の力を感じさせてくれました。
視覚を超えた作品の魅力
塩田さんの作品は、視覚的なインパクトが強く記憶に残ります。しかし、その魅力は見た目だけにとどまりません。作品が生まれた背景やテーマ、コンセプトに目を向けることで、より深い本質的なメッセージや力に触れることができます。
会場で上映されていた《塩田千春 クロノロジー》は、約30分という長さですが、塩田さんの幼少期から最新作までの歴史を作者自身の言葉で紹介する貴重な映像でした。この映像を通じて「なぜこの作品はこの表現に至ったのか」を理解することができ、作品への理解がさらに深まりました。
「つながる私」というテーマ
展示全体のテーマ「つながる私」は、全世界的な感染症の蔓延を経験した私たちが、否応なしに意識せざるを得なかった他者との「つながり」に焦点を当てています。このテーマに3つの【アイ】-「私/I」、「目/EYE」、「愛/ai」を通じてアプローチする試みは、非常に興味深いものでした。
同時にこの展示は「生と死」という人間の根源的な問題に向き合い、「生きることとは何か」「存在とは何か」という深遠な問いを投げかけています。
素材が語る物語
塩田さんの作品に使われている糸や古着などの素材は、生命、記憶、他者とのつながり、体と血液と命のつながりを強く感じさせます。特に糸は、人と人との関係性を見事に表現しています。結ばれ、絡まり、ほどけ、時に切れ、あるいはつながる糸は、社会で生きる上で避けられない人間関係の複雑さと美しさを暗示しているようでした。
大阪中之島美術館との調和
大阪中之島美術館の建築自体も塩田さんの作品と見事に調和していました。「ブラックキューブ」として知られる黒いプレキャストコンクリートの外観は、周囲の都市環境に溶け込みつつも強い存在感を放っています。
設計者の遠藤克彦氏が意図したように、この黒い外観は美術館内部でのアート体験を際立たせる背景として機能しており、塩田さんの赤や白の糸を使った作品がより鮮やかに見えるよう効果を発揮していました。
また、建物の中心にある「パッサージュ」と呼ばれる大きな吹き抜け空間は、1階から5階まで貫通し、自然光が降り注ぐ開放的な環境を創出しています。この空間設計が、塩田さんの作品の持つ開放感や繊細さをさらに引き立てているように感じました。
新たな気づき
この展示を通じて、私自身の「つながり」についても新たな気づきがありました。特に《塩田千春 クロノロジー》の映像は、「なぜ自分が描くのか?」「なぜ生活し、暮らしを営むのか?」という根源的な問いを投げかけてきました。
他者や環境との関係、すなわち「つながり」によって、自分のアイデンティティがより鮮明に浮かび上がってくる感覚を覚えました。この展示は、芸術を通じて自己と他者、そして世界とのつながりを再考する貴重な機会となりました。
塩田千春展「つながる私」は、単なる美術展示を超えて、私たちの存在の本質と人間関係の複雑さ、そして生きることの意味を深く考えさせる、心に残る体験でした。大阪中之島美術館の空間と相まって、芸術が持つ力を改めて実感させてくれる素晴らしい展示でした。
展覧会情報
展覧会名
塩田千春 つながる私
開催期間
2024年9月14日(土)– 12月1日(日)
開館時間
10:00 – 17:00(入場は16:30まで)
休館日
休館日:月曜日、9/17(火)、24(火)、10/15(火)、11/5(火)
*9/16(月・祝)、23(月・休)、10/14(月・祝)、11/4(月・休)は開館
会場
大阪中之島美術館 5階展示室
展示会公式サイト
https://nakka-art.jp/exhibition-post/chiharu-shiota-2024/
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