先日、アーティゾン美術館で開催中の「空間と作品」展を訪れました。この展示は美術作品とそれを取り巻く空間との関係性に焦点を当てた、非常にユニークで印象的なものでした。今回はその魅力と感動をお伝えしたいと思います。
開かれた美術館、作品との距離感
アーティゾン美術館の第一印象は「開かれた美術館」というものでした。作品との距離が近く、より親密に芸術を感じられる空間設計が印象的です。特に今回の「空間と作品」展では、6階で実際の展示空間を再現し、私たち観覧者がその中に入り込んで体感できるという画期的な試みがなされていました。
印象的だった作品と展示方法
円山応挙《竹に狗子波に鴨図襖》
最も印象に残った作品の一つが、円山応挙の《竹に狗子波に鴨図襖》です。この作品の展示方法が特筆すべきもので、実際に畳の上に座って鑑賞することができました。畳から立ち上る井草の香り、静寂な空間、そして絵の余白が生み出す広がり感。これらが相まって、まるで江戸時代の大広間にいるかのような錯覚を覚えました。
照明にも工夫が凝らされており、昔の日本家屋のように襖に横方向から外光が入る様子を再現すべく、正面に設置されています。さらにこの照明は美術館がある場所の太陽の動きに合わせて微妙に変化するそうで、時間とともに移り変わる自然光の中で作品を鑑賞する贅沢な体験ができました。
佐伯祐三《テラスの広告》
個人的に大好きな画家、佐伯祐三の《テラスの広告》も展示されていました。この作品は現代的なインテリアと見事にマッチしており、普段の生活空間に溶け込む芸術作品の魅力を再認識させられました。一人掛けソファとランプの横に飾られた構図が、作品の格好良さをより一層引き立てていたのが印象的でした。
空間設計と作品の調和
アーティゾン美術館の空間設計は、芸術作品をより身近に感じられるよう工夫されています。「空間と作品」展では、まるでモデルルームのような展示空間の中に貴重な石橋コレクションの数々が飾られていました。
例えば、赤い壁面に囲まれた部屋ではカミーユ・ピサロによる四季を描いた連作絵画が展示されていました。これらの作品はフランスの銀行家の別荘のダイニングルーム用に制作されたもので、展示室中央に置かれたテーブルが当時の空間や依頼主の思いを想像させてくれます。
また、ピカソの《腕を組んですわるサルタンバンク》の展示ではかつての所有者であるピアニストのウラジミール・ホロヴィッツの居間を再現。作品を鑑賞しながら「ホロヴィッツはこの絵を見てどんな思いで演奏していたのだろう」と想像を膨らませることができました。
新たな気づき – 芸術作品の存在感
この展示を通じて芸術作品が単なる鑑賞対象ではなく、空間の一部として、また所有者の癒しとしての役割を担っていることに気づかされました。普段の生活空間に溶け込むことで、作品たちが新たな表情を見せる様子は、芸術と日常の距離を縮めてくれる素晴らしい体験でした。
芸術をより身近に
「空間と作品」展は美術館での鑑賞体験を一新する、革新的な試みだと感じました。作品を単に「見る」のではなく、その空間に「入り込む」ことで芸術をより身近に、より深く体感することができます。
6階のモデルルームのような展示、5階の作品の持ち主にフォーカスした展示、4階の額縁や表装裂に注目した展示と、階ごとに異なる視点で作品を楽しめるのも魅力的です。
5階:作品と持ち主
4階:額縁や表装裂
美術愛好家はもちろん、普段美術館にあまり足を運ばない方にもぜひこの新しい鑑賞体験を味わっていただきたいと思います。アーティゾン美術館の「空間と作品」展は、芸術の新たな魅力を発見できる、素晴らしい機会となるでしょう。
展覧会情報
展覧会名
空間と作品
開催期間
22024年 7月27日(土)— 10月14日(月・祝)
開館時間
10:00 — 18:00
毎週金曜日は20:00まで
※ 入館は閉館の30分前まで
※ 日時指定予約制
休館日
月曜日、8月13日、9月17日、9月24日
(8月12日、9月16日、9月23日、10月14日は開館)
会場
アーティゾン美術館 6・5・4階展示室
展示会公式サイト
https://www.artizon.museum/exhibition_sp/place_and_piece/
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