マティスの自由なフォルム:晩年の巨匠の美を切り紙絵からヴァンス礼拝堂まで

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国立新美術館で開催されている「マティス 自由なフォルム」展に行ってきました。この展示会では、マティス晩年の大作が3つも展示されており、特に注目されています。

1つ目は「切り紙絵」の手法で、後に図版とテキストで構成された書物『ジャズ』として出版されました。2つ目は日本初公開となった縦4メートル、横8メートルの大作《花と果実》で、これも切り紙で制作されました。そして最後に、マティス芸術の集大成であり精神的達成とも言われるヴァンスに建つロザリオ礼拝堂があります。本展では、この礼拝堂を体感できるスペースが用意されています。今回はこれらの作品を順に紹介していきます。

目次

切り紙絵

アンリ・マティス
《ブルー・ヌードⅣ》

切り紙絵は、まるでハサミでデッサンするかのように切り進められます。線と色のメロディーは、即興で奏でるジャズのようです。マティスは、「色彩を並べるだけでは不十分で、互いに反応しなければ不協和音になってしまう」と述べています。そして、「線なら感動を伝えられるが、色を塗るとできない」とも語っていました。マティスは切り紙絵でこれらの問題を解消しました。

その中で生まれたのがブルーヌードの連作です。特に《ブルー・ヌードⅣ》は平面で構成された紙の作品なのに、ずっしりとボリュームを感じさせます。よく見ると4色以上のブルーを使い、何枚ものパーツから構成されています。背景の線からも、マティス自身が何度も試作を重ねたことがわかります。

アンリ・マティス
《葦の中の浴女》

マティスの線と色

アンリ・マティス
切り紙絵《アポロン》

フォーヴィスム(野獣派)の画家としても有名なマティスは、対比する色の効果を実験したり、線の表現(デッサン)を試したりし、「テーマとヴァリエーション」を出版するなど意欲的に活動していました。

フォーヴィスム時代には、陰影をつけず輪郭線と色面だけで女性を表現していました。また、展示されたパレットには、あまり絵の具を混ぜていない純色が目立っていました。これらは陶器の作品にも見られる特徴です。

「テーマとヴァリエーション」では、1枚目はモデルを見て描き、それ以降は見ずに描いたものを「ヴァリエーション」と呼んでいました。晩年には、筆と墨で描くことが多くなり、自由なフォルムの中にも生きた線を描くようになりました。これらはロザリオ礼拝堂の壁画にも活かされています。

アンリ・マティス
《星形のある背景の聖母子》

花と果実

アンリ・マティス
《花と果実》

縦4メートル、横8メートルの大作《花と果実》は、反復する花の切り紙絵で制作された作品です。この作品は日本初公開であり、展示会のメインビジュアルの一つとなっています。鮮やかな色彩によって生まれたリズムが、空間を彩ります。

この《花と果実》も前述の《ブルー・ヌードⅣ》も、時系列ではどちらもこの後にご紹介する《ヴァンス ロザリオ礼拝堂》の次に制作されたものだと知り驚きました。マティスが生涯芸術と仕事に意欲を燃やしていたことが分かります。

ヴァンス ロザリオ礼拝堂

マティスは、ニースから離れた場所にあるヴァンスのロザリオ礼拝堂の建設に関わりました。本展では、特別スペースが設けられ、この礼拝堂を体感できます。

時間を圧縮して1日の光の移り変わりを感じられるようになっています。ステンドグラスの図案は、青色、黄色、緑色の3色を用いて、「生命の木」をモティーフとした案が採用されました。

マティスはこの礼拝堂のステンドグラスが最も美しい時間は冬の朝11時だと言っていました。

個人的には、夕暮れ時の時間帯に「聖ドミニクス」の壁画に光が当たる時間帯が好きでした。白いタイルには黒い線での絵のみが描かれており、この絵の上にステンドグラスの色が乗るようにマティスが設計したそうです。

この壮大なプロジェクトは、いくつもの習作や模型を使ったプロセスを経て完成しました。これらの習作を鑑賞することで、マティスの仕事への飽くなき精神を感じることができます。

また、マティスは礼拝堂の調度品だけでなく、司祭服やカズラ(上祭服)のデザインにも取り組んでいました。これらは切り紙絵で習得した色とフォルムのハーモニーが感じられますね。

マティス芸術の集大成であり、精神的達成とも言われるヴァンス礼拝堂ですが、晩年マティスのお世話をしていたジャック=マリー修道女が言うには、マティスによく似ているとのことでした。きっと崇高な精神を持っていたのだと想像しました。

「あなたもこの静かな礼拝堂に入ると、マティスの家に行った時の喜びを感じるでしょう。この礼拝堂はあの画家に大変よく似ている。」

ジャック=マリー修道女
祭壇のキリスト磔刑像

マティスの“仕事の流儀”

本展はフォーヴィスム(野獣派)にも触れながらも、メインは後期のマティスの“仕事の流儀”にも触れることができます。この記事では触れませんでしたが、《ダンス》と名付けられた壁画製作では、検証のプロセスに意識しながら、人のフォルムを研究している姿が印象的でした。マティスはとにかく研究熱心で、試作と過程を意識しながら色の美しさを感じていたのだと思います。

本展は見どころ満載で、是非皆さんにも行っていただきたいです。また、本展アンバサダーの安藤サクラさんの音声ガイドも聞きやすくてオススメです!

展覧会情報

展覧会名
マティス 自由なフォルム

開催期間
2024年2月14日(水)~5月27日(月)

開館時間
10:00 ~ 18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで

休館日
毎週火曜日
※ただし4月30日(火)は開館

会場
国立新美術館

Webサイト
https://matisse2024.jp/

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